中村又五郎さんが亡くなった。とても悲しい。もちろんもう舞台に立つことはないだろうと、だいぶ前にご家族の方から伺っていたので、妙な期待はしていなかったけれど、ついに江戸は本当に遠くなってしまったんだなあと実感。
そこで珍しく私は怒っている。何を怒っているかって、どのマスメディアを見ても、間違いなく又五郎さん知らない人が記事書いてるでしょ? 人間国宝だった?…関係ないよ。名脇役?…わかってるの? 勘三郎の相談相手だって?…どれだけ勘三郎が又五郎さんを慕っていたか知ってて書いてるの? そもそも又五郎さんの出た舞台見たことあるの?…まったく、日本のメディアときたら。
又五郎さんが舞台に現れると、その瞬間にぽんっと時代が変わったものだ。江戸時代にきっちり移った。だから又五郎さんは幕の変わった直後にすっと通行人しちゃったりしていた。これがもうすごい効き目。ぞっとしたものだった。
» 中村又五郎さん死去…歌舞伎の名脇役、人間国宝|Yahoo!ニュース
私の歌舞伎の入門書「夜想EX2 歌舞伎はともだち 三階さん」に登場する又五郎さん。歌舞伎俳優養成所での指導風景。
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私は歌舞伎を見始める時から中村又五郎さんをチェックしていた。理由は簡単。「夜想」を作っていた今野裕一さんに教えてもらっていたのだ。「歌舞伎はともだち」シリーズの取材で相当に裏の方まで詳しかった今野さんから私へのアドバイスはふたつだけ。ひとつ、又五郎さんを見なさい。もうひとつ、柝を入れる人の出入りが見えたらもう大丈夫。(「柝」というのは幕切れとか役者の登場にあわせていれる拍子木ですね。)
そんなわけでおっかけてたわけではないけれど、又五郎さんのいる舞台はよく見ていた。本当に登場した瞬間に場の空気が変わってしまう。それは江戸時代の終わりを見てきた役者さんから直々に指導を受けた人の技だったんだろうなといつも思っていた。明治から見た江戸でも、昭和から見た江戸でもなく、江戸そのものが継承されていたただ1人の人だった。
2004年の「苦労納御礼・今昔桃太郎」での登場に驚いた直後だったと思うけれど、あるパーティでいかに又五郎さんが素晴らしいかを語っていたら、又五郎さんのお孫さんとご結婚されたという男性に声をかけられ返す言葉もなかったことを思い出す。もう江戸をそのままに演じられる人はいなくなった。
ご冥福をお祈りいたします。


